GOAなアンプたち番外

LH0032でMCプリアンプを作ってみる



・GOAではないが、こんなものを作ってみた。

・とうにディスコンの、ナショナルセミコンダクターのIC、LH0032CGがあったので、これでMCプリアンプを拵えてみようか、という気になったのである。

・このIC、K式でも一度だけ採用されたことがある。1983年5月号のNo−73“PLLクォーツロック モーター制御システムの設計と製作”において、モータードライブアンプの電圧増幅部として使われている。

・が、登場したのはそれ1回のみで、以来採用されることなく歴史の海に沈んでしまったのだ。
・が、実はK式第2世代としてしっかり採用された。のかもしれない。

・というのは、アプリケーションノートにあるとおり、LH0032の概略等価回路は下の回路図のとおりなのである。

・DCアンプシリーズで初めて信号系にICが採用された1983年2月号のNo−71“LF357採用DCマイクアンプの設計と製作”においてK先生は「差動アンプの共通ソースや共通エミッタには定電流回路が有用だが、定電流負荷やカレントミラーはオーディオ回路には音の点で問題がある」と、なお第一世代の思想で仰っているのだが、同じく同号で“DCアンプのIC化、これは未来のアンプの予告でもある」とされ、そして、「LH0032はDCアンプ用に有望なOPアンプだ。スルーレートが500V/uS、周波数帯域が50MHzと、数ある高速OPアンプ中最高の速度を誇っている。内部回路はFET入力の2段差動アンプとエミッタフォロアーという極めて単純な構成で、カレントミラー回路と、カスコード接続をとり除けば、DCアンプシリーズの基本回路とよく似た構成になる。」と述べておられる。そして、実際にNo−73でこれを採用された訳だが、その2年後にはカスコード接続と、カレントミラ−回路を搭載した、このLH0032とそっくりの第二世代、すなわちGOAに全面的に移行するのだから、このLH0032がGOAの原型と噂されるのもやむを得ないかもしれない。2段目差動アンプ&カスコードアンプをダイオード3個で作る最小限電圧で動作させるところもそっくりだし。。。

・が、本当のところは分かろう筈もない。
・で、今回、無理は承知でLH0032でMCプリアンプを拵えてみることにしたのだ。

・無理とは、勿論オープンゲインである。LH0032のオープンゲインは、負荷1kΩ時、低域で70dB(標準値)しかないのだ。この等価回路で示される回路構成なら、軽く100dB程度のオープンゲインは得られそうなものだが、残念ながら70dB。

・何故か?というと、その原因はひとえにカレントミラー回路のTRのエミッタに抵抗が挿入されていないことによる。この回路ではゲインの殆どを2段目差動アンプで稼ぐのだが、その電圧ゲインは2段目差動アンプTRのgm×2段目差動アンプの負荷である。そして、2段目差動アンプの負荷は、そのカスコードアンプ部の出力抵抗と、カレントミラー部の出力抵抗、そして、次段エミッタフォロア部の入力インピーダンスの並列合成値である。が、この回路構成では、カスコードアンプ部の出力抵抗も次段エミッタフォロア部の入力インピーダンスも相対的にかなり高く、実質的な負荷はカレントミラー部のTRの出力抵抗だろう。5mAのコレクタ電流での小信号用トランジスタの出力抵抗は、例えば2SC1775Aでも30kΩぐらいだからだ。他の負荷要素に比して一桁は低い。したがって実質の負荷はこれになる。で、アプリケーションノートには、2段目差動アンプ部の電圧ゲインが1400倍とある。2段目のgmは大体40*5mA=200mSだから、電圧ゲインが1400ということは、その負荷が7kΩに過ぎないということになる。すなわち、このカレントミラーTRの出力抵抗は7kΩに過ぎない訳だ。な〜んと。これでは抵抗負荷にした方がましではないか。というとそれは無理で、カレントミラーを7kΩの抵抗に置き換えたら5mA×7kΩ=35Vの電圧降下が発生するので、電源電圧が±15Vではアンプとして成り立たない。が故に、「Notice that the full differential gain is realized with the use of the current mirror Q10 and Q16,which also provides high active load resistance to the PNP cascoded pair, resulting in high amplifier gain.」ということなのだろう。(爆)

・だが、カレントミラー部TRのエミッタ側に100Ωの抵抗を挿入しただけで、電流帰還が掛かり、0.5Vの最大出力電圧の減と引き替えに、たぶん低域で90〜100dB程度のオープンゲインは得られるだろう。と思うと非常に残念だ。まぁ、あえてそうしていないのだろうから、LH0032は、オープンゲインの大きさより、スルーレートの大きさや高速性を重視したということなのだろうか。

・で、K式第二世代では勿論ここにメスを入れ、カレントミラーTRにエミッタ抵抗を挿入することにより、大きなオープンゲイン獲得能力を付け、GOAや理想NFBを実現した訳だ。

・が、今回はあくまで素のLH0032。いくら個別素子をセラミック基板上に配置してワイヤ−で組んであるハイブリッドICでも、キャンを開けて内部をいじることは到底不可能。だから、オープンゲイン70dBはいかんともしがたい。オープンゲイン70dBでは、フラットアンプ部は良いとして、MCイコライザー部は成り立ち難いわなぁ。。。とは思いつつも、まぁ、ともかく組んでみたのだった。(爆)

・ICで組むと、本当に回路図は簡単、7本撚り線での配線作業も手間は百分の一という感じで、製作も実に楽ちんだわぃ。
・で、組んでみたら案外まともに動作するような感じなのだった。(爆)

・なので、イコライザー部のゲイン不足=NFB量不足にはとりあえず目をつぶるべし。。。
・と言うわけで、次は位相補正値を決めるために方形波応答を観る。

・先ずは、イコライザーアンプ部。

・位相補正なしでは、右のとおり明らかに発振する。信号が巡り巡って入力方形波にまで発振波形が乗ってしまっている。

・そこで、位相補正のコンデンサーをいくつか試してみると、以下の写真のとおり、この回路構成では、位相補正は3pFから5pFで良さ気であることが分かる。
LH0032 MCEQ 位相補正なし
100kHz 0.5V/div  5V/div
LH0032 MCEQ 位相補正3pF
1kHz 20mV/div 5V/div
LH0032 MCEQ 位相補正5pF
1kHz 20mV/div 5V/div
LH0032 MCEQ 位相補正3pF
10kHz 0.1V/div 5V/div
LH0032 MCEQ 位相補正5pF
10kHz 0.1V/div 5V/div
LH0032 MCEQ 位相補正3pF
100kHz 0.5V/div 5V/div
LH0032 MCEQ 位相補正5pF
100kHz 0.5V/div 5V/div
LH0032 MCEQ 位相補正3pF
1MHz 0.5V/div 5V/div
LH0032 MCEQ 位相補正5pF
1MHz 0.5V/div 5V/div
・非常にまともな応答だ。(爆)

・まともなだけでなく、流石に高速OPアンプ。1MHz方形波まで何のあばれもなく、綺麗に入力波形のまま出力している。

・しかも、この帰還回路定数設定では、直流域ではNFB量がほぼ0になるはずなのだが、DCオフセットの調整は非常にスムーズであるし、ドリフトもNo−121(もどき)やNo−128?、No−168(もどき)のイコライザー達と変わらないレベル。

・なんとも不可思議な気はするのだが、現実的に動作に問題はないので、まぁ、いいか。(爆)
・なので、次に、フラットアンプ部。こちらは何の問題もなく成り立つだろう。

フラットアンプ部も、位相補正なしでは右のとおり明らかに発振する

・のだが、以下の写真のとおり、この回路構成でフラットアンプ部も、イコライザー部同様に位相補正は3pFから5pFで良さ気であることが分かる。良さ気だけではなく、イコライザー部同様、その応答波形はオーバーシュート等の気配もなく実に綺麗で、1MHz方形波応答まで出力波形が入力波形に完璧に追従している。ように観じられる。

・要するにスルーレートが大きいのだ。これは、高域特性、具体的には1MHzから10MHz台の第2ポールがより高域側にあって、この付近での位相回転が相対的に小さい範囲に収まっていることを表している。何故なら、そうでない場合は位相補正を増やさないとNFB安定度が確保できないので、結果、スルーレートが悪化し、したがってこのような応答にはならないからだ。
LH0032 MCFA 位相補正なし
100kHz 1V/div  5V/div
LH0032 MCFA 位相補正3pF
10kHz 1V/div  5V/div
LH0032 MCFA 位相補正5pF
10kHz 1V/div  5V/div
LH0032 MCFA 位相補正3pF
100kHz 1V/div  5V/div
LH0032 MCFA 位相補正5pF
100kHz 1V/div  5V/div
LH0032 MCFA 位相補正3pF
1MHz 1V/div  5V/div
LH0032 MCFA 位相補正5pF
1MHz 1V/div  5V/div
LH0032 MCFA 位相補正3pF
100kHz 1uS 1V/div  5V/div
LH0032 MCFA 位相補正5pF
100kHz 1uS 1V/div  5V/div
・と言うわけで、位相補正はイコライザー部、フラットアンプ部とも3pFか5pFを候補とし、最終的には全体を組んだ後に再度方形波応答を観て、音も聴きながら、決定することとしたのだった。

・のは、こういうものは単体動作時と、ケーブル等でアンプとして全体を組んだ状態では状況が変わるものだから。ケーブル等の影響で入出力に容量がぶら下がると、大体は位相回転が増加し、単体では安定であったものが不安定になったりするものだ。
・なので、こうなったら電源部を拵える。

・これまでの動作確認は鉛バッテリーを電源として行っていたのだ。

・で、この際だ。K式超高速PPレギュレータをおごろう。
・回路はこう。

・LH0032の電源電圧は±12Vから±18Vだが、消費電力や、初段FETのゲート漏れ電流の懸念もあるので±15Vで組む。が、ツェナーダイオードの基準電圧の関係で仕上がりは±15.5Vとなった。

・で、ケースに組んでしまう。ケースは新調ではなく、廃用となったNo−122MCプリのケースのリユース。
・で、イコライザー部から再度の調整を行う。

・低域でNFB量が全く不足のはずだとは思いつつも、帰還回路の反転入力側ゲート抵抗値は270Ωのままやってしまう。(爆)

・実はこの回路構成で、単体のまま動作させた場合は位相補正は2pFでも安定に動作する。が、このようにケースにアンプ全体を組んで動作させると、位相補正が2pFの場合は勿論、3pFでも、ブーンというハム音がなかなか強烈に出て、更に何かの拍子に放送波が検波されてラジオ放送が聞こえてきたりする。それらがケーブルやケースに触ったり、手を近づけたりするだけで敏感に変動する。こういう状態は、NFBループの位相余裕が減って発振直前になっている状態であることの現れだ。

・ので、イコライザー部の出力にシリーズに100Ωを繋いでやる。と、ピタッと状況は改善し、まともな動作を取り戻す。出力に繋がるケーブルの容量による位相回転がそれでキャンセルされる訳だ。100Ωを繋がなくとも位相補正を5pFに増やすと、それでもまともな動作を取り戻す。

・が、結論としては、音の観点から、位相補正は5pFとし、出力には100Ωをシリーズに繋ぐこととした。

2pFor3pF+100Ω、または5pFでは、音が鋭く熱すぎて、ちょっととげとげしく焦げ付きそうな感じもある。5pF+100Ωにすると、よりたおやかな方向に変化し、バランスのとれた大変良い音になる。

・以下はその状態での方形波応答。
LH0032 MCEQ 位相補正5pF
1kHz 20mV/div 5V/div
LH0032 MCEQ 位相補正5pF
10kHz 0.1V/div 5V/div
LH0032 MCEQ 位相補正5pF
100kHz 0.5V/div 5V/div
LH0032 MCEQ 位相補正5pF
1MHz 0.5V/div 5V/div
・何度も同じ事を言っているが、実に良好な方形波応答。

・また、IC内部の初段FETのゲート漏れ電流も、この電源電圧では全く問題なく、そのゲートオープン時とアースへのショート時で、出力オフセットは全く変化しない。

・ので、これで行く。
・次にフラットアンプ部。

・実は、フラットアンプ部も、単体では、出力にシリーズの100Ωをつながなくとも、位相補正は2pFで安定に動作する。

・しかしながら、こうやってケースに組むと、オフセット調整のためテスターの針を出力に触るとオフセットが大きくなったりする。かつてのGOAプリを思い出す現象だ。が、その状態で位相補正を3pにすると全く安定だ。音もすこぶる良い。

・最終的には、出力に長いケーブルをつなぐこともあることを想定して、出力にはシリーズに100Ωの抵抗をつないでおくことにした。

・以下はその状態での方形波応答。

LH0032 MCFA 位相補正3pF
10kHz 1V/div  5V/div
LH0032 MCFA 位相補正3pF
100kHz 1V/div  5V/div
LH0032 MCFA 位相補正3pF
1MHz 1V/div  5V/div
LH0032 MCFA 位相補正3pF
100kHz 1uS/div 1V/div  5V/div
・またしても同じ事を言うが、実に良好な方形波応答。

・流石にスルーレート500V/uSの高速OPアンプだなぁ。(^^)

・使用素子の高域限界も高いものが使われているのだろう。

・そのため、位相補正も最小ですみ、さらにそれを充電する初段FETの動作電流も3mAと大きく設定されているので、結果、高スルーレートとNFB安定性が高いレベルで保てるものとなっている。ということだろう。

・で、スルーレートを右の写真から読み取ってみると、0.1uSで出力は15V立ち上がっているから、150V/uS。

・が、これは我が安もの発振器の発振波形の立ち上がりのスピードによって規定されてしまった数値だ。本当のスルーレートはもっとましな発振器を使わないと測れない。(爆)
LH0032 MCFA 位相補正3pF
100kHz 0.1uS/div 1V/div  5V/div
・で、その音なのだが、一言で言って実に正確無比、純粋、純水。

・なんとなくかつての電池式GOAプリの音はこんなだったよなぁ、という思いが脳裏をかすめる。AC電源で動かしているのに。(爆)

・というのは、勿論フラットアンプ部のことで、MCイコライザー部については一応保留。電圧出力アンプでイコライザーを構成しているという普通の形式だから、K式的には第一世代に退化したものだし、オープンゲイン不足で低域でNFBも足りていないことが明らかなので、音のインプレッションを披露すべきものではなかろうて。(^^;

・が、ノイズも実用レベルだし、実は違和感のない音であるように感じられ、十分にハイゲインMCプリとして成り立っている。ような気がする。(爆)

・ので、反面教師として、当面このままで行く。







(2009年1月7日)





(その後の1)



・もはや31年も前の1978年1月号搭載のNo−27“最新型プリアンプとDCチャンネル・デバイダーの製作”での、MMカートリッジ用DCプリアンプのフラットアンプ部。と言うか、MC昇圧トランスAU−301を使用してDL−103を鳴らすためのDCプリアンプのフラットアンプ部である。

・このNo−27のDCプリアンプは、回路的には、音の革命旧々単行本にも搭載されているように第1世代のDCプリアンプの標準である。

・初段は2N3954(FD1840、FD1841)が正しいのだが、2SK246でモデルとしては問題ない。

・唐突にこれが登場するのは、この回路のオープンゲインが
70dB程度で、LH0032のそれと同等であるため。

・で、PSpice(評価版)で占うと、 
オープンゲイン(緑)は低域で73.5dB、その高域カットオフ周波数fc=10kHz程度と、音の革命旧々単行本に記載された通りの占い結果が出る。
・そして、こちらがLH0032もどきの回路。

アプリケーションノートにIC初段のFETのgmがId=3mAで3.5mSとあるから、初段は2SK246のモデルでよいだろう。また、2段目差動アンプのエミッタに多少のエミッタ抵抗を入れないとオープンゲインが70dB程度に落ちないので5Ωの抵抗を入れて調整してある。さらに終段エミッタフォロアのバイアス回路はPSpice(評価版)のTR10個以内という制限のためダイオードと抵抗で代用する。初段の定電流回路も同様の理由で電流源シンボルで代用。

・まぁそういう意味でLH0032“もどき”に過ぎないが、別に厳密に観じようというわけではないからこれで十分。

オープンゲイン(緑)は低域で71.5dBで大体No−27程度だが、その高域カットオフ周波数fcは30kHz程度と、fcはNo−27よりやや高い。

・シミュレーションでは、クローズドゲイン(青)に10MHzで4dB程度のピークが生じている。このピークは位相補正を10pFにすると完全に消滅する。シミュレーションのTRモデルの高域特性はLH0032の内部のそれより悪いようだ。
で、No−27=第1世代のDCプリアンプでは、そのフラットアンプ部の回路がそのままイコライザーアンプ部としても使用されている。

・回路はこう。
PSpiceの占うその特性はこのとおりで、まさしく電圧出力アンプでNF型イコライザーを組んだ場合の特性となる。

・すなわち、可聴帯域でループゲイン(赤)(≒NFB量)(赤)がリアイコライズされたクローズドゲイン(青)と線対称の逆リアイコライズの形になる。要するにNFB量は、10Hzで15.5dB、20kHzで50dBと、可聴帯域では高域ほどNFB量が大きいという特性になる訳だ。

・そして仕上がりゲイン(青)は、1kHzで35.5dB。

・なので、この第1世代と同等のオープンゲインであるLH0032を用いてプリアンプを構成するのであれば、“MCプリ”などという無理なことを言わずに、素直に“MMプリ”とすれば良いのである。(^^;

・そのためには、帰還回路の反転入力側ゲート抵抗をNo−27同様に1.2kΩとすればよいのだ。

・というわけで、帰還回路をNo−27と全く同じ定数とする。
・で、そうすればこのようにK式第1世代のDCプリアンプ同等のMM用プリアンプになる。

・まぁ、これが無理のないところだなぁ。

・と言うわけで、“LH0032MCプリアンプ”転じて、めでたく“LH0032MMプリアンプ”となった。(^^)


・で、シミュレーションでは、クローズドゲインの22MHz程度に16dBものピークを生じている。通常これでは発振してしまうと思われるのだが、フラットアンプのシミュレーション結果と同じで、実機の方はこのように帰還回路を変更しても、位相補正は従来通りの5pFで何の問題もなく動作するようなのだった。
・という訳で、めでたくLH0032MMプリアンプになった。

・のだが、実はMCプリアンプとしても使えないことはない。

・というのは、出力0.3mV/5cm/SのDL−103で使用しても、ゲインはこれで最低限だがまぁ十分なのである。

・この設定で1kHzにおけるイコライザー部の電圧ゲインは35.5dB。フラットアンプ部は16.4dBの電圧ゲインであるから、トータルゲインは最大で51.9dBと、約400倍なのだ。0.3mVの入力がプリアンプ出力では120mVになる。ので、実際のところ、我が家ではボリュームは3時までで十分以上の音量になる。というわけで、十分にMCプリとしても成り立つ。

・例えば、音楽を愛する新単行本のMCプリのイコライザー部のゲイン設定はどうか。それは41.5dBなのである。これとたった6dBしか違わないのだ。それでも、フラットアンプ部のゲインを1倍(0dB)までしか絞れない旧VGA方式では、ゲイン設定が大きすぎて使いにくい。という声も多い。

・さらに、1979年12月号のNo−39“万能型DCプリアンプ”のゲイン設定をみると面白い。この時は既にイコライザー分配型になっており、MC用ファーストイコライザーとMM用ファーストイコライザーを同時に搭載して、セカンドイコライザーを共有するという構成のプリアンプなのだが、そのファーストイコライザー部の1kHzにおけるゲイン設定は、MC用が47.1dBなのに対し、MM用はなんと21.6dBなのである。

・これは何を物語るのか?は、簡単で、MM用とされていた第1世代のDCプリアンプは、ゲイン的にはMM用としては大きいものであって、カートリッジにもよるがMC用としても使えないことはないゲインだった。ということである。

・では、何故、そのようなゲイン設定のMM用DCプリアンプだったのか?は、まぁ、当時メーカー製を含め、MM用イコライザーの仕上がりゲインは、AUX入力のチューナー等の入力レベルに合わせるため、大概が40dB程度だったということに過ぎないのかもしれない。小さいものは大きくできないが、大きいものはボリュームで絞れば良いだけなので、イコライザーの仕上がりゲインを大きめに設定するのは当然な訳だ。メーカー製なら音が大きくならないなどといったクレームを受けないためにもなおさらだ。が、それ故に、K式ではその後フラットアンプのゲインを0まで絞れないVGA方式となった結果、長年に渡って過剰ゲインに悩まされることになった。

・また、教義的にはゲインを大きく取ってボリュームで絞った方が音がよいから。ということだったように思う。が、現実問題、No−27、すなわち第1世代の回路構成で、1kHzのゲインを20dBとする単独イコライザーとした場合、高域におけるNFBが大きくなりすぎてNFB安定度を確保できない、あるいは、NFB安定度を確保するためには位相補正をかなり利かせなければならないだろう。したがって、この回路構成で位相補正を利かせゲインを絞ったらあまり音は良くないだろう。イコライザー分配型というのは、この矛盾を、一般のイコライザーアンプのように能動負荷を導入して低域ゲインを大きくするとともにオープンゲインがごく低域から下降するようにして解決する、という手法を取らずに解決するためのものであった訳だ。

・と言うわけで、DL−103でMCプリとして良く良く音を聴いてみる。(^^)

・勿論、音量的には必要最低限にやや毛の生えた程度のレベルだ。大ホールで鳴らすような音量にはならない。(爆)

・が、我が小部屋では十分以上だ。

・ただ、位相補正5pFでは、何か音に違和感がある。いまいちしっくりしない虚像感のようなものを感じる。ので、位相補正を10pFにしてみた。

・あぁ、こっちだよ。違和感のない良い音になった。(^^)

・ので、方形波応答を観てみる。
写真は上下2枚がセットで、その上が位相補正5pFの場合、下が10pFの場合。
LH0032 MCEQ 位相補正5pF
1kHz 20mV/div 2V/div
LH0032 MCEQ 位相補正5pF
10kHz 0.1V/div 2V/div
LH0032 MCEQ 位相補正5pF
100kHz 0.5V/div 2V/div
LH0032 MCEQ 位相補正10pF
1kHz 20mV/div 2V/div
LH0032 MCEQ 位相補正10pF
10kHz 0.1V/div 2V/div
LH0032 MCEQ 位相補正10pF
100kHz 0.5V/div 2V/div
・5pFでも10pFでも変わらず良好な方形波応答であるように見える。(爆)

・が、よくよく観ると位相補正5pFの応答波形は、何となく光跡が太いような感じがする。

・それは、右の1MHz方形波応答で縦軸を1V/divに拡げた写真の上下を比較すると良く分かる。

・観じるに、位相補正5pFの場合は、出力に超高周波(数十MHz超か)の発振が僅かに乗っているのだ。

・と言うわけで、この場合は位相補正は10pFが必要のようだ。

・いやはや、もう少しましなオシロをそろえないといかんようだわなぁ。(爆)

LH0032 MCEQ 位相補正5pF
1MHz 0.5V/div 2V/div
LH0032 MCEQ 位相補正5pF
1MHz 0.5V/div 1V/div
LH0032 MCEQ 位相補正10pF
1MHz 0.5V/div 2V/div
LH0032 MCEQ 位相補正10pF
1MHz 0.5V/div 1V/div
  
・と、いうわけで、LH0032を使用したプリアンプ、第1世代のK式DCプリアンプのイコライザー部のゲイン設定と同様な設定にして、DL−103が聴けないことない。

・が、こういうものを持ち出して聴くと、SN比も良くなるし、音や音量にゆとり感、安心感が出てくる。

・やはり、昇圧トランスがなくとも“聴けないことはない”ということであって、この設定ではMC昇圧トランスをかませたくなる。というのが正直なところ。
(爆)

・ならば、これではどうか。

・帰還回路のゲインを決定する、反転入力側ゲート抵抗を560Ωにする。これでクローズドゲインを6dBアップする訳だが、これで音楽を愛する新単行本搭載のMCプリアンプと同じ帰還回路だ。ただし、高域の帰還量の関係で、ハイブリッドMCプリや真空管MCプリと同様に帰還回路に3.6kΩの高域帰還制限抵抗が必要。
・当然ループゲイン(赤)(≒NFB量)は全体に6dB小さくなる。10Hzでは8dBだ。

・位相補正は5pFでクローズドゲイン(青)の7MHzに1dB程度のピークを生じているが、これまでの状況からすると実機では多分これで大丈夫だろう。
・で、音を聴いてみる。

・ありゃ、なんで。。。? さっぱり魂のこもらないただ鳴っているだけのいわゆる半殺しトーン。。。

・失敗だ。

・って、一度に二つのことをやってしまったのが間違いだった。実はさらにトータルゲインを上げればもっと良いだろうと考えて、同時にフラットアンプの方も帰還回路の抵抗を5.6kΩから12kΩに替えて6dBのゲインアップをしていたのである。それもスケルトン抵抗の手持ちがなかったので進で代用したのだ。

・どうにもこれはいけない。と、さっそくフラットアンプの帰還回路はスケルトン抵抗で元に戻した。

・なんと。魂のこもった違和感のない良い音に戻ったではないか。(^^)

・フラットアンプの方は進がまずかったのか、ゲイン設定がまずかったのか? は、そのうちスケルトン抵抗を手に入れて確認してみよう。

・フラットアンプのゲインを元に戻しても、DL−103を使う限りゲインも十分だし、音も実に良好。

・これで良いのではなかろうか。(^^)
・この状態でのイコライザー部の方形波応答を観ておく。
LH0032 MCEQ 位相補正5pF
1kHz 20mV/div 5V/div
LH0032 MCEQ 位相補正5pF
10kHz 0.1V/div 5V/div
LH0032 MCEQ 位相補正5pF
100kHz 0.5V/div 5V/div
LH0032 MCEQ 位相補正10pF
1kHz 20mV/div 5V/div
LH0032 MCEQ 位相補正10pF
10kHz 0.1V/div 5V/div
LH0032 MCEQ 位相補正10pF
100kHz 0.5V/div 5V/div
LH0032 MCEQ 位相補正5pF
1MHz 0.5V/div 5V/div
・位相補正は5pFでも10pFでも良好であることが分かる。

・どちらの場合も、応答波形の光跡が太めになったり、にじんだ感じにはならない。

・音的にも位相補正は5pFで良好なので、5pFで行く。

LH0032 MCEQ 位相補正10pF
1MHz 0.5V/div 5V/div
・とまぁ、低域でのNFB量が少ないのではないか、という問題はあるが、実用上何ら問題がない。ので、これでLH0032MCプリアンプである。

・なお、念のためだが、ノイズ。

・これは勿論低ノイズではない。いわゆるサーというホワイトノイズは当然ある。が、これは2SK97を初段に起用している我が家の他のMCプリアンプと同等なレベルだ。ただし、ゲイン設定を小さくした場合はボリュームを大きくしなければならないので、当然相対的にノイズが大きくなってしまう。また、がさがさ、ごそごそというショットノイズというのだろうか、そういうノイズもある。これは我が家では真空管アンプで聞くことがあるが、半導体プリではあまり聞かないノイズだ。したがってこのLH0032MCプリアンプ、商品としてならば成り立たないだろう。し、勿論お勧めするようなものでもない。

が、これも別に実用上問題ない。

・ので、結論。これで行く。










(2009年1月11日)






(その後の2)

私のLH0032 MCプリアンプは現在こうなっている。



・前回からの変更点は、

@MCイコライザー部の位相補正Cを5pFから20pFにした。
Aフラットアンプ部のクローズドゲイン設定を6.6倍から11倍に大きくした。にもかかわらず位相補正Cも3pFから10pFに大きくした。

こと。

・位相補正コンデンサを大きいものに変えたのは、いずれも聴感上この方が音の充実感が増すから。

・フラットアンプ部の仕上がりゲインを大きくしたのは、この方が使い勝手が良いから。MCイコライザー部も“メタルキャンTRによるMCプリアンプ”のように仕上がりゲインを6dBくらい大きくするとCD出力とのバランスが取れてさらに使い勝手が良くなると思われるが、低域でのオープンゲインが70dB程のLH0032でそうするのはNFB的にどうかなと思えるので今のところそうしていない。
・LH0032の概略等価回路を現在でも入手可能な個別半導体で組んでフラットアンプ部を構成し、そのゲイン&位相−周波数をLTSpiceで占ってみる。
・LH0032の初段FETのgmはその動作点3mAで3.5mSとアプリケーションノートにある。2SK246はId=3mAだと規格表からgmは2.9mS程度なので、まぁ、これで殆どLH0032の特性に近いシミュレートが出来るだろう。

・で、オープンゲインを計算すると、初段のgm1は2.9mSとして、初段の負荷はドレイン抵抗500と2段目の入力抵抗の並列合成値Ra。で、2段目の動作点が5mAなのでそのgm2≒40×5=200mS、そのhfeをGRランクなので300としてhie=300/200≒1.5kΩ。なので並列合成値Ra=375Ω。従って、初段のゲインA1は、2.9mS×0.375kΩ=1.088倍(0.73dB)。差動アンプなので本来その1/2だが、2段目でPP合成され2倍になるのでこのままとし、次に2段目だが、2段目の負荷はカスコードアンプの出力抵抗とカレントミラーの出力抵抗、そして終段エミッタフォロアの入力抵抗の並列合成値で、カレントミラーの2SC1815の出力抵抗は下左図のLTSpiceで占うと下右図のとおりで20kΩ程度、エミッタフォロアの入力抵抗はそのhfeを300として300kΩ、カスコードアンプの出力抵抗はMΩレベルと思われるので無視し、従って2段目の負荷は18.75kΩ、よって2段目のゲインA2=200mS*18.75kΩ=3750倍(71.48dB)。終段エミッタフォロアのゲインは0dBなので、結果、低域でのオープンゲインは、A1+A2=0.73+71.48=72.21dB。高域では、2段目の位相補正Cのミラー効果により、そのゲインはgm1*A2/(1+2πf(1+A2)C)となるので、C=3pFの場合、10kHzで70.2dB、100kHzで61.0dB、1MHzで43.4dB、10MHzで23.7dB。C=5pFの場合、10kHzで69.0dB、100kHzで57.5dB、1MHzで39.1dB、10MHzで19.3dB。C=10pFの場合、10kHzで66.7dB、100kHzで52.4dB、1MHzで33.2dB、10MHzで13.3dB。C=20pFの場合、10kHzで63.4dB、100kHzで46.6dB、1MHzで27.2dB、10MHzで7.3dB。
・LTSpiceの占い結果は下の通りで、ほぼ計算どおりである。

・位相補正C=3pF、5pF、10pF、20pFの場合のパラメトリック解析となっているので、オープンゲイン(赤)、ループゲイン(青)、クローズドゲイン(緑)とも、高域側に伸びている順に位相補正C=3pF、5pF、10pF、20pFの場合である。

・この場合、位相補正が3pFではクローズドゲイン(緑)の10数MHzにやや盛り上がりが生じている。前回観たとおり、LH0032の方形波応答ではクローズドゲイン設定が16.4dBでも位相補正C=3pFで問題ない方形波応答であったので、LH0032の高域特性はこの個別トランジスタを使用したモデルより良いと思われる。

・したがって、LH0032では位相補正を変える必要はないのだが、聴感上この方が緊張感がほぐれ、充実感が増すように感じるので、位相補正Cを10pFに増やした。
・次に、入手可能な個別半導体で組んだLH0032の回路での1MHz方形波応答を占う。位相補正C=3pF、5pF、10pF、20pFの場合のパラメトリック解析。
・位相補正C=3pF(緑)と5pF(青)の場合多少オーバーシュートが生じるが、その程度は僅かである。10pF(赤)と20pF(薄青)の場合は全く素直で綺麗な方形波応答。
・これは、スルーレートを観るために1MHz±5Vの過大入力をした場合の方形波応答。

・位相補正Cが3pF、5pF、10pFでは立ち上がりでは殆ど同じになっている。立ち下がりの方は僅かに違う。

・立ち上がりでスルーレートを測ると、3pF、5pF、10pFでは50nSで15V程度立ち上がっているので、15×20=300V/uS程度ということになる。
・こうしてみるとLH0032の回路は非常に良い回路である。この回路を入手可能な個別半導体で組んでもとても良いアンプになるだろう。

・が、DCアンプ的にはDCオフセットやドリフトの点で留意が必要だ。

・我がLH0032によるフラットアンプでも、ゲイン設定変更後で、右チャンネルで±4mV程度、左チャンネルでは±12mV程度のDCオフセットとドリフトが生じている。アプリケーションノートによればLH0032の初段はモノシリックデュアルFETであるが、それでもやはりこの程度のDCオフセットやドリフトが生じる。今回は幸い許容範囲にぎりぎり収まったが、個体差がかなりありそうなので選別が必要となる場合もあるだろう。

・で、このくらいのgmでこのぐらいの電流を流せるデュアルFETがないので、シングルFETを選別して熱結合して使うことになるが、その場合は初段にもカスコードアンプを付加して自己発熱を極小にする措置を取った方が吉。
   
・次に、入手可能な個別半導体で今回のイコライザーアンプを構成し、そのゲイン&位相−周波数をLTSpiceで占う。
・位相補正C=5pF、10pF、20pF、40pFの場合のパラメトリック解析となっているので、オープンゲイン(赤)、ループゲイン(青)、クローズドゲイン(緑)とも、高域側に伸びている順に位相補正C=5pF、10pF、20pF、40pFの場合である。

・この構成ではNFB回路のインピーダンスがエミッタフォロアバッファによって2段目ゲイン段に殆ど影響しない。従ってオープンゲイン(赤)はフラットアンプの場合と殆ど同じである。なお、低域30Hz以下でオープンゲインが
低下しているが、これは出力のDCカットコンデンサ0.47uFのため。

・この場合、位相補正は5pFでもクローズドゲイン(緑)の1MHzから10MH超の領域までピークや盛り上がりが生じておらず、したがって、いずれの位相補正値でもNFB的に安定である。

・前回LH0032によるイコライザーアンプについては位相補正Cを5pFにしたのだが、その後これをフラットアンプ部と同様の理由により20pFに変更してある。ビデオアンプ用途ではなくオーディオアンプ用途なので、帯域を広げるより適当に帯域を押さえた方が良いということなのかも知れない。
・で、最後に位相補正見直し後の音だが、。。。文句ありません。(^^)





おまけ

・MCプリのはずのLH0032MCプリアンプにさらにMCステップアンプトランスをかませて使う。などということは誰もやらないだろう。が、実はこれが悪くない。というより良い。(爆)(^^;

・これでDL−103より出力の小さいMCカートリッジも使えるようになるし、未だに世に存在するMCステップアップトランスでこんな低価格のものは他にないし。なので、実にありがたい貴重な存在。DENONのAU−300LC。






(2009年12月31日)